2006年12月16日土曜日

[ Un Carnet de Bal ] 1937 France

舞踏会の手帖

「今朝、ツバメが去った」
「もうすぐ冬ね」

1937年の仏蘭西映画。
原題「Un Carnet de Bal」
監督はJULIEN DUVIVIER(ジュリアン・デュヴィヴィエ)。
本国仏蘭西ではあまり評価が芳しくないようですが、日本では高い評価を得ている監督。何か華やかそうでいいなー、と思って手に取った作品。
以下、密林のレビュ抜粋。

36歳にして未亡人になってしまったクリスチーネ(マリー・ベル)は、身辺を整理していた際、20年前の日記を発見する。亡き夫からは他の男性との交流をまったく許されていなかった彼女は、もう一度人生をやり直す糸口として、16歳で初めて舞踏会に出たときに出会い、彼女に愛をささやいた男たちを訪ねる旅に出る…。

マリー・ベル扮するクリスチーヌが過去の亡霊を探し、旅をするオムニバス形式のお話。変わってしまった過去の男性達に再開するがそれは彼女の美しい思い出の人を一人、また一人と失ってゆくにすぎないものだった。…と、ここまで書くと何だか味気ない映画のように聞こえますが、再開するそれぞれの男性との一編はペシミズムとロマンティシズムをふんだんに孕んでいるのです。

ストーリー、俳優陣、音楽、そして演出、どれも極上。
香水の纏わりつくような匂いと、路地裏の埃っぽい匂いそれが交じり合って鼻腔を刺激します。
甘ったるすぎもせず、かといって現実的もせず…、
仏蘭西の古き良きオトナのロマンス。


「初めての舞踏会なんて初めての煙草と同じようなものよ」

2006年5月18日木曜日

[ やけっぱちのアリス ] 島田雅彦

やけっぱちのアリス

はぢめて読んだ島田氏の作品。
装丁は金子國義氏。
ぶっ飛んだ青春恋愛小説、
退廃的でありながら物凄く軽快。
お馬鹿でありながら物凄くシリアス。

群青色に灰色、そしてかすかにオレンジ色が混じるまだら模様の闇。風は空に刻一刻、飽きもせず怪物のスケッチを描いては消し、消しては描く。東には狛犬、西にはトリケラトプス、南にはゴジラ、北にひょっとこ。やがて、ゴジラとひょっとこが混じり合って、象の鼻とうさぎの耳を持った豚が生まれる。西南西の方角には突然、メガネザルの顔をしたヘラクレスが現われる。

この出だしから始まる「やけっぱちのアリス」(流刑地より愛を込めて)。
軽快でお茶目なこの始まり方に一度ぐわっと掴まれた私は、其の侭、終着点まですごい力で引っ張られてしまいました。

そもそも島田雅彦氏に興味を抱いたキッカケというのは、
以前NHKの番組で日本語について美輪明宏氏と対談なされているのを見たこと。それまで名前も知らぬ方だったわけなのだが、その時の理知的で上品な話ぶりと麗しいお姿に(小奇麗なお顔立ちですのよ)これは!と思い作品を購入。そして読んで、その容姿と作品のギャップに衝撃をうける私。

クライマックス、突然加速度を上げるあのスリル感がたまりません。

2006年5月4日木曜日

[ 妖精の輪の中で―見えないものを信じながら ] 井村君江

妖精の輪の中で―見えないものを信じながら

妖精の世界では有名な井村君江女史の自伝的御本。
自伝本ながら美文で大変読みやすい。
軽快さを失うことなく、深みのある内容は小説を読んでいるかのよう。
(むしろ下手な小説よりずっと良い)
また、女史の教養の深さと交友の広さには嘆息、勉強って大事ですね。

以前から自然が大好きでアニミズムなものに惹かれていた私は、女史のアニミズムな土台ができた理由が故郷の自然にあるということにとても共感。それが妖精学へと繋がっていくのだなあ。

妖精に興味のない方にも是非読んでみてもらいたい一冊。